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琥珀
アンジェリナとイザンの両名はしばらく戻れない旨をディオネに伝え、アエルロトの世話を焼いた。
しかし、アエルロトはそれでは落ち着かないと言う。
実際、アエルロトが早起きして二人の世話を焼いてみたところ、記憶の欠片が一つ戻った。
(そう……確かに私は、誰かの世話を焼くのを日課の一つとしていた……)
そこまでは解っても、相手が誰だったかは靄がかかったままである。
その後もなんとか生活に支障が出ない程度のことは二人のおかげで思い出すことが出来たのだが…。
相変わらず肝心な部分はアエルロトの胸の奥で、大切な思い出や愛しい人と過ごした日々の記憶を閉じ込め、琥珀となって埋もれている。
それを連日掘り返しては、欠片を一つずつ取り戻していく。
その多くが、ただ一人の人物を指し示しているのに、アエルロトはどうしても相手の顔や名前を思い出せずに悶々とする日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
村の市場で茶葉や食材を買い、宿に戻ろうとした際、アエルロトは迷子を見つけた。
どうも親とはぐれたらしく、不安げな様子でしきりに周囲を見回し、泣きそうな顔をしている。
アエルロトは膝を着いて子供に視点の高さを合わせながら、微笑みながら声を掛ける。
「迷子になってしまったようですね…でも、もう大丈夫ですよ。私が一緒に親御さんを探してあげましょう。」
迷子は素直に頷いた。
アエルロトはその小さな手を握り、親の特徴を聞き出すも、子供の腹の虫が鳴いたので、一先ず宿に連れて行くことにした。
子供は宿の食堂でアンジェリナに相手をさせ、自分は厨房を借りておやつを作る。
何を作るかは特に考えず、使える食材を見て着手したものは―。
いつの間にか、クロモドの好物にもなっていたプリンである。
記憶などなくとも体が覚えている為、レシピも見ずに慣れた手つきでこなしていくうちに、また一つ欠片が戻った。
(そうだ、私はいつも誰かの笑顔の為に…こうしてお菓子を作っていた…)
勿論、子供は大喜びでプリンを平らげ、無事に母親の元に返したのだが…『宿に美味しいお菓子を作るイケメンがいる』と噂になってしまい、やがてその噂はグリンデルにも届くようになる。
しかし、アエルロトのスイーツの虜になっていた常連客はいつも厨房に篭りっきりだったアエルロトの顔を知らない。
その為、『絶品スイーツが手に入らないのなら、せめて、一般人でもいいからイケメンを拝みたい』との思いからか、村に滞在しながら失踪中のアエルロトの帰りを待っていた常連客も、次第にそちらに流れていった。
その人物の得意スイーツがプリンだと知るや、クロモドはそれが行方不明のアエルロトではないかと疑い始めた。
レッドらに自分の仮説を話し、留守番を託すと翌日には一人で件の人物に会いに行った。